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日本酒・建築・町屋でまちをデザイン

2019.7.11

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通称、七曲がり(ななまがり)。お城へ攻め入る敵を防ぐために何度も直角に曲がる通りで、徳川幕府が安泰し武具から仏壇づくりに転身した職人が集まり住んだと伝わる。仏壇店や工房、町家が軒を並べるなか江戸時代とは違った歴史を感じる建物に目がとまる。彦根市登録有形文化財「旧佐藤家住宅」。昭和7年(1932)建築、木造二階建てで一階に鉄格子の出窓、二階の出桁造り(だしけたづくり)*と呼ばれる立派な軒、うだつ**が重厚な構えをみせる。内部には洋室があり伝統形式を残しつつ外内観ともに独自性豊かな近代住宅だ。旧朱子学研究所、保険会社として使用された後、佐藤家になったそうだ。

*江戸時代の町屋の伝統を引き継ぐ日本独自の建築様式。深い軒が重厚感を出し商家などの格を示していた。丈夫で構造的に優れているため明治以降の建物にもみられる。

  • **隣家との境に設ける防火壁で瓦や漆喰を施している。

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現在、この家に住むのは彦根出身の前谷吉伸さん。大学、大学院、設計事務所勤務の経験を活かし建築プロデュースなどを行うデザイン事務所「ななまち」を主宰する。都市デザインを専門分野にしていたが、2009年に彦根商工会議所異業種交流会で町屋活用委員会のメンバーになったことがきっかけで、古い建物と関わり出した。町屋活用委員会で県外出身のメンバーの客観的な目線が彦根の古き良きものに気づかせてくれたことが大きいと話す。2012年の小江戸ひこね町屋情報バンクの発足以来、事務局長を務める。旧佐藤家住宅に住むようになり4年目になるが実感もしているという。「歴史のある建築物は年々味が出てくるというか、新しいものにはない材料や技術による魅力が増してきます。」また子育てにも向いているとも。寒いなら重ね着をする、段差があるから気をつけるといったことがしぜんに身につくのではないかと。寒さや害虫対策といった旧家ならではの不便さ以上の良さを感じているようだ。

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前谷さんは前谷酒店酒舗まえたに四代目でもある。大学生の時に全国の著名な酒蔵を取材して研究論文をまとめた。そして2018年に書籍として発行したのが「日本の美しい酒蔵」。伝統的な木造蔵から現代的な鉄筋コンクリート作りの蔵まで多様な酒蔵建築を、蔵元の歴史や酒造りのこだわりなどとともに解説している。量産は出来ないけれど原材料や製法が個性的な小さな酒蔵がつくる酒の美味しさを知ってからは、自分の目で見て選んで仕入れをするようになった。そんななか滋賀の酒蔵を振り返ってその大きな特長を知る。びわ湖を取り囲む山々から流れる地下水は山によって異なるため、お酒にもバリエーションがあったのだ。今では店舗で取り扱うのは滋賀が中心となった。2018年には神社酒場と題して市内の飲食店×滋賀の酒蔵によるイベントを開催。神様に捧げる最上級のささげ物のひとつであるお酒と、究極のあてとのペアリングが好評で定期的に開催する予定だ。一昔前は飲食店や酒蔵のライバル同士がイベントに参加するのはありえなかった。それぞれの味やこだわりを持ったお店が協力してまちを盛り上げようとしている。

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現在彦根では、様々な理由により歴史的価値のある空き家が増加している。不動産情報として出たとしても駐車場や空き地になってしまうことも少なくない。一方で風情のある空き家を活用したいという声や、そのままの町並みを残したいという思いがある。当バンクは所有者と活用希望者、そして古き良き風景と活気あふれる三方よしのまちづくりを目指す。2018年、その活動PRのため日本酒「城下町彦根」企画した。県内の酒蔵で吟味した純米大吟醸・純米吟超辛口・本醸造をラインナップ。販売店や飲めるレストランを募集中だ。→https//www.hikone.work

最近、彦根を離れて住む人たちに「彦根が良くなったね。」と言われるのが嬉しいという前谷さん。「一見、お酒とまちづくりは結びつきませんが、神社酒場のようなイベントのように、それぞれの立場でできる“まちづくり“ってあると思うんです。」住民ひとり一人ができること=まちづくりの原点なのかもしれない。

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